第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM

プログラムレポート

【D-2】島尾敏雄・ミホ夫妻 ―家族から見たお二人と『海辺の生と死』―

11/27[日] ヴィータホール
  • 10:15-12:50
    海辺の生と死
  • 13:05-13:50
    トーク ゲスト:島尾伸三氏(写真家、作家)、しまおまほ氏(エッセイスト)、越川道夫監督

本プログラムは、戦後文学の最高峰とも評される「死の棘」の著者島尾敏雄さんとその妻の島尾ミホさんの終戦間際での奄美大島・加計呂麻島での出会いと愛を描いた映画『海辺の生と死』の上映と島尾夫妻の長男の島尾伸三さん(写真家、作家)、孫のしまおまほさん(エッセイスト)と監督の越川道夫さんによるトークにより家族のまなざしを交えて島尾夫妻や本作品の本質に迫ろうというものでした。

トーク冒頭では、本作品のヒロイン・トエ(島尾ミホさん)を演じ本年度TAMA映画賞最優秀女優賞を受賞した満島ひかりさんの受賞の挨拶を映像でご覧いただきました。「島の言葉を使うことで、自分の心に近づいた言葉が出たり」「加計呂麻島は『神の島』といわれる場所で、宇宙的なことが毎日起こる場所。映画の中にかつての島の美しさとか恐ろしさを描きたいと思って演じていましたけど、時に『はっ、ミホ様降臨』とか感じることもありました」といった奄美にルーツを持つ満島さんならではのコメントを受けて島尾伸三さんが、まず奄美大島の自然の現状について、「他所から奄美を訪れた人は海がきれいとかいうけれど、子どもの頃と比べれば、珊瑚が死んで魚の群れもあまり泳いでいなくて、『海は死んだねぇ』と小学校のときの友だち5、6人で泣きました」としみじみと語りました。映画でひときわ印象的だった島の言葉について、越川監督から当時の言葉を話せる人がいなくなってしまっていたので伸三さんに台本を読んでもらって録音したテープを役者さんたちが聞いて覚えてセリフをしゃべっていたという撮影裏話が。伸三さんは、奄美の言葉は今ユニセフから消滅危惧言語に指定されており、(海の自然と同様に)3000もの音韻を持っていた豊かな奄美の言葉もなくなってしまったと嘆息していました。

そして島尾夫妻についての話題に。まず没後10年にはなるものの今でも感じるミホさんの存在感について、伸三さん、まほさんが各々出会った不思議な出来事や感覚を語り、越川監督が「伸三さんは(ミホさんが)亡くなった後も親子喧嘩している」と会場を沸かせていました。

敏雄さんについては、伸三さんが、お客さまからの質問に答える形で、結果として特攻艇で出撃しなかったのは13日に敵艦を発見して出撃準備したものの見失ってしまって終戦を迎えてしまったからだということ、隊員を事故で一人も死なせたくないとの思いから弾薬管理に厳しかったこと、敗戦後軍上部からの全て焼却処分して撤収せよとの命令に背き兵舎にあった物資を村人に与えたことなど敏雄さんの人柄がにじみ出るお話があり、、会場からは理解がすごく深まったとの声を多数いただきました。

そして冒頭の挨拶に呼応するかのように皆さんから満島さんについての話題も。越川監督は、「(満島さんは)島での撮影初日、そっち(島とか島尾ミホさん的なるものの世界)に溺れるのが怖いって言っていましたが、結果的にはそっちに向かって走っていって、最後まで走りきった」と。まほさんは、「(満島さんは)イメージとしては、ミホというよりは父の妹であるマヤに、華奢な部分とか重なるところがあると思いましたね」と。そしてこれまで両親の著書や映画は一切見てこなかった伸三さんですが、「本作品を見て1ケ所だけ、夜中トエ(満島さん)が朔隊長に会いに行くところで一瞬ほぼ100%母の顔に見えましたよ」と本プログラムを象徴するかのような言葉を残してくれました。

トークを終えた楽屋では、伸三さんの奥様で写真家の潮田登久子さんとまほさんの2歳のお子様がお出迎え。島尾敏雄さん生誕100年の今、この場所に敏雄さん、ミホさんの子どもと孫とひ孫がいてどこにでもある団欒の様子を目の当たりにしたとき、島尾夫妻の物語が伸三さん、まほさんによって受け継がれていきつつ新たな物語も生み出していくのだなぁと四代目(まほさんのお子様)の姿が語っていたように思えました。

当日は、映画好きの方はもちろん地元文学サークルで活動している方、奄美大島出身の方など様々なお客さまに来ていただきましたが、トークセッションによってこの作品の意義―奄美の美しくも不思議な自然や字幕をつける必要があるほどのシマユメタや島唄が行き交い今もなお島尾ミホさんが居続ける神話的世界を映像として残したことーを実感していただけたのではないかと思います。ご来場していただいたお客さま、映画上映後もトークに参加していただきました多くのお客さまに感謝申し上げるとともに、今後も映画を個人の中に閉じることなく、映画を映画というカテゴリーに押し込めることなく、広く深く展開していくような魅力的プログラムを実施していきたいと思います。

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