Movie最前線 この人に聞け!

今回より日本映画の最前線で活躍中の監督、俳優、プロデューサー、他の方々の独占インタビュー記事を連載します。
記念すべき第1回の「この人」は多方面に活躍中の映像環境プロデューサーの武藤起一さんです。

 -  まず映像環境プロデューサーという肩書きについて、日本では一人だけですよね?
 
武藤氏 そうですね、海外でもそういう方がいるかどうかは知りませんが。
 
 -  この由来は?
 
武藤氏 まあ一言で言うと若気の至りでしょうね。
 
 -  これはいつから使われているのですか?
 
武藤氏 ぴあをやめて独立した時からだから(※1)、92年からもう10年近く使ってますね。
 
 -  今も使ってますよね?
 
武藤氏 はい。でもこういうのってなかなか定着しないので、自分としては今さらって感じで使っていますけど、相手によってね、映画業界以外の人にはなんのことだかわからないから、ニューシネマワークショップ(以下NCW)の主宰とか映画プロデューサーとか使い分けはしてますが。何でそういう肩書きにしたかっていうと、所信表明みたいなものですよね。
 
 -  それは具体的には?
 
武藤氏 映像の環境をプロデュースするって、それをやるんだぞって自分の意志というか、とりあえず肩書きとして思いついてね。映像ってほとんど映画だけど、映画環境プロデューサーだと語呂が悪いから。
独立した時はフリーだから、ひとつの仕事に限定できないし、映画に関することでできること何でもやっていくんだという自分のメッセージみたいなものがあって。でもそのときは何もやってなかった。
それから10年たってNCWをやり、ある程度映画プロデューサーとして認めてもらって、その肩書きにこだわるっていうより、初心忘れるべからずっていうか、そこの部分でのこの映像環境プロデューサーのままでいるって気はしていますね。
 
 -  最近の活動についてNCWを始めてみて現在までの成果というか状況というか、いかがですか?
 
武藤氏 今年の4月で5年目を迎えて、最初のステップは踏んだという感じです。
おかげさまでメンバー(生徒)は集まってくれて、卒業生から映画業界人も出てきて、まずまずの出足はとれたかなという感じはしてますね。これからが大変だってのもありますし。
うちの場合は、映画を趣味以上に、できれば仕事にしたいという人に対して、何ができるか、日本映画界で活躍していけるかってことをやってきたけど、この5年間で映画をめぐる環境はけっしてよくなったとはいえないし、すごい変革期にあるのをきちんと見据えて対応していかなくてはならないでしょうね。
開始当初、映画学校はそんなに多くなかったけど、その後雨後のたけのこのごとく増えて、競合というかある種生き残りをかけた競争が起こってきたというのもありますし、その中でどうやってNCWの目的を達成していくのか、次のステップを踏んでいく時期だと思いますね。
 
 -  この間劇場上映もされたクリエイターコースについて、今後の展開として、もっと大きいバジェット(予算)でバックアップという考えはありますか?
 
武藤氏 基礎クリエイターコースの短編を「Movies-High!」という形でレイトショー公開したっていうのは1つのステップだと思うんですよね。
次のステップとしてはその上のクリエイターゼミでは中編が何本かできていて、製作途中のものでもかなり期待のもてるものもあるので、もう少しいいかたちで公開していきたい。お客も入って劇場も喜んでくれているし、「Movies-High!」については継続していきたいと思いますね。
またゼミ卒業生のためのフィーチャー・プロジェクトという劇場長編用の企画・脚本を提出してもらい、ぼくらがプロデュースするという試みを去年から始めたんですが、時間をかけてやってみようというのが1本あるんですよね。
脚本を監督につめてもらっているんですが、即撮影は無理でも1年くらいの訓練期間をおいて、何とか低予算で劇場用長編という形でつくらせたいなと思ってますけど、どこで実現するかはわからないですが、まあ十分時間をかけて可能性が見えてからやろうと思ってます。遅くとも2、3年のうちにはNCWから劇場用映画を出したいですね。
 
 -  現在新作のプロデュース作品があるそうですが・・・。
 
武藤氏 1月25日にクランクインして、2月16日にクランクアップした『とらばいゆ』ですね。
『アベックモンマリ』(以下『アベモン』)の大谷健太郎監督の2年ぶり(撮影自体は3年ぶり)の2作目ということで、4月完成、公開は秋くらいを目標にしています。キャストは主演・瀬戸朝香さん、その相手役が塚本晋也さん、妹役が市川実日子さん、その相手役が村上淳さんと、けっこう豪華なキャストです。
前作の1500万円という超低予算よりはバジェット(予算)の大きい作品で、といってもまだ単館系くらいの予算ですが。
今回キャスティングにかなり自信がありまして、瀬戸さんというメジャーネームと、相手役のインディーズのカリスマともいうべき塚本晋也さんという組み合わせは意表をついて映るんじゃないかと思いますが。
話は前作同様恋愛映画で、全編会話劇で、前作のテイストをスケールアップさせた作品ですね。ストーリーとしては瀬戸・市川姉妹の職業がが女流棋士で、夫の塚本と恋人の村上が、いわゆる勝負師のパートナーとしてどういうふうに関係をつないでいくかということが1つのポイントになっています。
笑えて泣ける映画になると思いますね。常連(前作にも出演)の大杉漣さんも姉妹の師匠役で、その他にも鈴木一真さんや前作の主演の1人辻香織里さんなどが華を添えてます。
 
 -  海外の映画祭等への出品などは考えていますか?
 
武藤氏 おかげさまで国内では前作の『アベモン』は大変高い評価をいただいたんですが、ヨーロッパの映画祭では国内ほどの評価はなかったんですね。
まあこの作品のテイストが日本映画らしくなく、フランス映画っぽいというか、海外の映画祭が日本映画に求めているものとは違う気がしたんですね。
映画祭で受賞して評価されてという形とは別のアプローチがあるかなと思いますし、私見ですが、アジアなんかでは受け入れてもらいやすい映画かなと思うので、韓国、台湾、中国・・・とアジアの人たちに見て欲しいですね。
 
 -  プロデュース業に関して、既存の監督へのアプローチなどの考えはありますか?
 
武藤氏 これまでやってきて、もう評価の決まっている監督さんは自分がやらなくてもいいかという思いはあります。
まだ完全にできあがっていない作家で可能性のあると思う人を、世の中で勝負できるところまで持っていくという作業が自分の中で面白いなとつくづく思うんですね。
例えば今回の大谷くんにしても、1本目の『アベモン』は僕が1人でトータル・プロデュースしたわけですが、評価が高く、その後何人か一緒にやりたいといってくれる人がいたので、今回は複数でプロデュースしています。才能のある監督の作品をちゃんとした形で世に出せれば、そういう協力者が出てきて次につながるというのはすごくいいことだと思いますね。
才能があるのに、やり方がわからないという作家がいたら、一緒に仕事をしていきたいっていうのが強いですね。まあ、あんまり儲からないですけど。
『アベモン』だってヒットしたとはいっても、僕はそんなに儲かってないですよ~。今度TVに売れたらやっと車が買えるかなくらいで(笑)。
やりたい企画があって、何億という予算でなければできないというのであれば、大きい仕事をすることもあるかもしれませんが、今一番興味のあるのは、才能のある人を一緒になって世に出していくということですね。
 
 -  今後映画業界を目指す人たちに何かアドバイスはありますか?
 
武藤氏 そういう人はNCWに来ましょう(笑)。
方法論として決まったものはないですね。NCWから業界人がたくさん出ているのは、つながりがもてるというのが一番大きいですよね。映画業界はネットワークがないと入りにくいのが現状で、仕事にしたいとなると、自分を認めさせるというか、アプローチしていかないと難しい。
映画をつくりたいのならば、プロデュースに対する考え方さえしっかりしていれば、デジカムもあるし、PFFもあるし、どんどん撮ってほしいです。そういう今のプロデュースの感覚さえあれば誰でも見えてくるものはあるでしょうね。
NCWで教えているのはそういうことで、決して職業訓練校ではないし、そういう感覚をつかんで欲しいです。
 
 -  本日は貴重なお話ありがとうございました。
 
2月4日千駄ヶ谷 喫茶店ルノアールにて
聞き手;佐藤セーロー 記録;増田雅子
 
 ※1 武藤氏は1985年から1991年PFF(ぴあフィルムフェスティバル)のディレクターを務めた。
 
取材後記

新作の撮影でお忙しい中、撮影場所近くの喫茶店で今回のインタビューは行われました。
一つ一つの質問に本当に丁寧に、メモを取る私にもわかりやすいように、平仮名や漢字などの指示もしていただいた武藤さん。御自身は早稲田大学のシネマ研究会で大森一樹さんや石井總互さんなどプロ意識の高い、そして今第一線で活躍されている仲間に会ったことが映画業界に入る決定的体験だったのだそう。
幸か不幸か作るほうの才能はなかったんだよーと笑っていらっしゃいましたが、才能はあるのに何をしていいのかわからないという作家を導いていくという現在のお仕事は、本当に天職だったのでしょうし、きっと現在の日本映画界に欠けていた視線をお持ちのパイオニアとしての役割を今までもこれからも担っていくのでしょう。
実は武藤さん、早稲田以外への進学を考えたこともあったそうで、そうしたら今ごろは映画業界人だったのでしょうか?『アベックモンマリ』も誕生していなかったかも。(雅)
武藤起一氏プロフィール
Mr. Mutoh's picture 映像環境プロデューサー。1957年、茨城県生まれ。早稲田大学シネマ研究会時代に多数の自主映画を製作。85~91年にPFF(ぴあフィルムフェスティバル)のディレクターを、`91にはあの伝説の深夜番組「えび天」の審査員を、93年神戸国際インディペンデント映画祭ではディレクターを務める。
現在、映画の新たなる旗手を育てるべく、ニューシネマワークショップを主宰。一方、初の劇場公開作品として『avec mon mari/アベックモンマリ』(大谷健太郎監督、99年)を製作・配給し、高い評価を得た。