Movie最前線 この人に聞け!

今回は新作『ウォーターボーイズ』が公開されている矢口史靖監督です。「監督業はサービス業」と言い切る、エンターテイメントにこだわる監督のサービス精神旺盛さがが伺える、今までにないインタビューです。

 -  まずお名前の“史靖(しのぶ)”ですが、名前のいわれというのはあるんでしょうか?
 
矢口氏 知らないです。
 
 -  親から聞いたりとかは?
 
矢口氏 ないですね。自分でも考えたことないですよ。やだなとずっと思ってました。何か女みたいだし。
 
 -  どんな子供でした?どんな遊びをしていたとか。
 
矢口氏 人を笑かすのが好きでしたね。
 
 -  クラスではやっぱり人気者でした?
 
矢口氏 それはなかったですね。おちゃらけがいきすぎて、けっと思われてしまうというか。中学くらいから、もう目立つとけっと思われるのなら、隠れてしようと思うようになりました。いたずらをして誰が犯人か気づかれないけど、それで慌てていたりびっくりしていたりするのをよそから眺めているのが楽しいというか。落とし穴に近いですね。
 
 -  好きなTV番組とかは?
 
矢口氏 「日本沈没」。怖さに震えてましたね。「バイオニックジェニー」とかね。「600万ドルの男」って知ってます?あれの女版でね。現実から地続きのとんでもない話というか。ドラマで。
 
 -  それはアメリカのドラマですか?
 
矢口氏 はい。「バイオニック~」は。
 
 -  あの頃パニック系ってはやりましたよね。そういうものが好きだったんですか?
 
矢口氏 好きでしたね。「ジョーズ」とか「タワーリングインフェルノ」とか。やっぱりリアルな現実と地続きの怖さというのが好きでしたね。完全にSFだったりとかそういうのではなくて。現代の人間が、リアルにそんなことがおきたらどうなっちゃうんだろうって。
 
 -  よくマンガが好きっておっしゃってますけど、好きな作品とかは?
 
矢口氏 特にこれが大好きというのはなくて。週刊マンガとか一切買っていなかったんですよ。普通に好きだっていうだけで。いまだに週刊マンガって読んでないんですよ。
 
 -  (マンガの)原作をしませんでした? 最近。
 
矢口氏 ああ、あれ書き始めて、初めて連続で週刊マンガを読みましたね。
 
 -  じゃあ普段は単行本で読むほうですか?
 
矢口氏 そうですね。人から薦められて面白いなと思って借りて全巻揃えるってことはありましたね。途中で1話だけ読んでても面白くないから。普通の子より好きだったのか言われると・・・?
 
 -  好きな音楽とかは?
 
矢口氏 聞かないですね。今でも聞かないです。
 
 -  じゃあ部屋にアイドルのポスターが貼ったりとかは?
 
矢口氏 なかったですね。映画のポスターはありました。ガンダムのポスターもありました。
 
 -  その後、大学で映研に入って、鈴木卓爾さんと知り合って。1年先輩で、今でも一緒にお仕事されたり。卓爾さんの第一印象ってどうでしたか?
 
矢口氏 突飛な人だなと。大学入るまで映画を自分でつくろうなんて思っていなくて、(高校時代)美術部に入っていたから、絵でやっていこうかなと漠然と思っていて。絵はまあ苦手ではなかったので、特技を生かして受験するならというので、美大をいろいろと受けたら、造形大学に受かって。新入生を勧誘するための部活・クラブ紹介で、ほかの連中はみんなしゃべりでやっていた中で、いきなり部屋が真っ暗になって映写機が回って映画が始まったんです。それが映研で、鈴木卓爾が作った映画を上映したんですけど、素っ裸で山を走り回ったりしてるんですよ。馬鹿だなと思いつつも、結構面白くって、会場にいた映画なんかに興味のない連中にもうけていたんですよ。これってもしかして絵を描くよりもお客の気持ちをダイレクトにつかめるのかな、映画って自分でもつくれるのか、と衝撃を受けましてじゃあ作ってみようとそのまま映研に入ったんですけどね。
 
 -  じゃあ卓爾さんの影響は大きいと。
 
矢口氏 そうですね。すごく目立つ存在だったんですよ。作る作品どれも面白かったし、自分で出て自分で撮っていて。パフォーマーに近いんですけど。で、俺が2年の時かな。彼がPFFに出品した作品が入選したんですよ。『虹』っていう。PFFって何だろう?ってその頃やっと考え始めて、でっかい会場で上映するし。ライバル意識が芽生えて。
 
 -  それで『雨女』で'90年にPFFのグランプリとってスカラシップの権利をとって。'93年に『裸足のピクニック』を撮って。この時面白いのが「裸ピク新聞」。これはどこから発想したんですか?
 
矢口氏 あれはパンフをつくる予算がなくって、ペラ1枚で何か印刷物をということで新聞だ!と思って。うそっぽいけど本当の記事がいろいろと載っていて、個人で編集・印刷したんですよ。もうバックナンバーはほぼないですね。あちこち上映会やっているうちに売り切れちゃった。
 
 -  一部100円でしたっけ?
 
矢口氏 はい。純利益は全部自分なんですよ。当時それで暮らしていましたからね(笑)
 
 -  『裸足のピクニック』の主演の芹川砂織さんは監督自らスカウトしたんですよね?どうやって声を掛けてOKをもらったんですか?
 
矢口氏 (彼女のことは)ぴあの隣にある喫茶店でしょっちゅう見ていたはずなんですけど、まったく記憶になくて。だけどその日に限って、もう煮詰まっていてプロデューサーには決めろよと言われていて、逃げるように喫茶店に入ったら「あ。こいつがいるじゃん。」って、「すいません、隣のぴあでこれから映画を作ろうとしてるんですけど」って話し掛けたんですよ。「バイト明けにぴあに来て下さい」「いいですよ」って。「しめた。」って僕は僕で彼女を逃がしたらわけわかんないタレントに決められちゃうから、「決めました。今からもう彼女来ますから。」って言ったら、プロデューサーは「えらいっ。お前にそういう度量があるとは思わなかった。」って誉められて。もうみんな主演女優が来る!ってぎらぎらした目で彼女迎えたんですよ。それでバイト明けに彼女には何も言わなくって、台本これって渡して、「じゃあ明日返事します」って台本持って帰ったんですよ。後半に泉谷しげるさんにレイプされるシーンあるから、あんま深く読まれても困るなぁって思ってたら、次の日お母さんと一緒に読んだらぜひ出ろといわれたって(笑)二つ返事で。芝居ができるかどうかもわからない素人だったですけど、決めちゃったんですよ。
 
 -  次は『ひみつの花園』ですよね。西田尚美さん主演の経緯というのは?
 
矢口氏 東宝のキャスティングディレクターという人と、相談してたんですけど、なかなか決まらなくって。ある日彼が持ってきたのが「ビューネ」のCMのビデオだったんですよ。とても滑稽でかわいかったんですよ。それでイメージに近いかなと。
 
 -  その後の『アドレナリンドライブ』の主演安藤さんを見ててもそうなんですが、主演がだんだん矢口さんに似てきますよね?
 
矢口氏 そうするつもりは全然ないのですが、よく言われますね。物語をひっぱる中心人物のリアルな気持ちを追いかけていくと、自分ならどうするかってリアリティで台本書くんですよ。だから仕方ないんですかね。
 
 -  顔つきまで似てしまうっていうのは?
 
矢口氏 うーん。監督のキャラクターに主要登場人物が似るっていうのはよくあると思うんですよ。市川準監督の作品だと皆おとなしそうだし、井筒和幸監督の作品って皆ちゃきちゃきな感じじゃないですか。監督のキャラクターが感染するんだと思います。
 
 -  (『ひみつの花園』のパンフをめくり)このパンフについても監督の意向がかなり反映されていますよね。
 
矢口氏 これもほとんど僕が内容を決めてますね。やりすぎたなと反省して、もう今後はパンフには参加すまいと。
 
 -  一昨年公開の『アドレナリンドライブ』ついてですが。これでエンターテイメント作ったら日本で一番という評価をされるようになったと思いますが。
その頃から「監督はサービス業だ」っていう発言が目立つようになるんですが、この作品でその考えが確立したんでしょうか?
 
矢口氏 いつから言い出したのか自分でもわからないですけど。最初に映画を作ったときから、卓爾の上映を観てお客が喜んでいるのがすごいと、こんなに大勢を相手にいっぺんに楽しませることができるんだという刺激だったわけで。作って内輪だけで観るとかじゃなくって、自分のことをまるで知らない人に見せてびっくりさせたり、笑わせたりしたいなという欲求で、お客を楽しませることまで含めて映画って面白いというところから始まっているので当然のことだと思っているのですよね。「サービス業」というのが一番しっくりくる言葉かなと。
 
 -  そういう意識は本当にパンフレット一つにしてもいろいろなところにでてますよね。
 
矢口氏 そうですね。まあこれ(『ひみつの花園』のパンフ)はやりすぎですけどね。
 
 -  現場でも父親以上の年齢のスタッフもいる中で、そういうサービス精神が伝わっているんじゃないですか?うまく動かしている秘訣は?
 
矢口氏 「動かしてる」なんて感じじゃないですよ。お世話してもらっている。自分では出来ないですし。専門的な部分は本当にお任せしなきゃ出来ないですよ、共同作業が必然ですよ。
 
 -  それまで使ってたミニチュアを『アドレナリンドライブ』では使っていませんよね。何か意識の変化とかあったんですか?
 
矢口氏 使った方が面白いシーンにミニチュアを使ってるだけで。『アドレナリン~』でもやろうと思えばやれたんですけど、切迫したシーンに「あ。ミニチュア!面白い!」というカットを入れたときに、お客の感情は連鎖的に物語に乗っかっているかというと、やっぱりミニチュアの面白さに引っ張られてしまって一度途切れてしまうわけだから、『アドレナリン~』の場合不適切だと思って使ってないんですよ。まあ内容によりけり、ケースバイケースです。
 
 -  今後も使わないわけではないと。
 
矢口氏 はい。もちろん。別に方針を決めて映画を作っているわけではなくって、またバカな映画を撮りたいなって思ってます。
 
 -  さて新作の『ウォーターボーイズ』ですが、まず台本完成にどのくらい費やしたんですか?
 
矢口氏 ペラで10枚くらいのシノプスを3ヶ月かけて6回くらい書き直して。プロデューサーとこの線でいきましょうってなってから(脚本を)3回書き直して2000年9月15日にクランクインなんで、確かその4日前というギリギリに決定稿を出しました。だから4ケ月ですか。いつもよりだいぶ短い期間で書きました。
 
 -  『ひみつの花園』は卓爾さんと共同脚本で、それ以降というのは?
 
矢口氏 『アドレナリン~』は興味ないと言われて一人でやりました。当時、彼はNHKの「さわやか3組」の脚本を書いててアップアップなんで、今回は誘えませんでした。今後ももちろんお願いしたいですけど。
 
 -  (『ウォーターボーイ』の台本をめくり)それで主人公(の名前)がこれまでと同様、鈴木、佐藤、太田・・・。この名前へのこだわりのなさというのは? 野良犬(の名前)がパブロフだし(笑)。
 
矢口氏 これは実家の犬がパブロフでね。名前はお客さんが覚えなくていいかな、ということで、「綾小路なんとか」とか、強烈で複雑にしたって映画の登場人物の名前なんて普段覚えないでしょ?主人公たちは普通の人なんだから名前なんか覚える必要もないと思って。そんな訳でまあずっと鈴木とか佐藤とかなんです。鈴木は特に「どこにでもいる人」って感じが好きなので気に入ってずっと使ってます。
 
 -  台本をさわりだけ読んだんですけど、げらげら笑いましたね。
 
矢口氏 字幕なしで外人も笑える、動きの映画ですかね。まあ「MOVIE」っていうくらいですから。シンクロの話なんですけど、シンクロのシーンは最後ちょっとだけなんですよ。「水着の女王」みたいなレビュー映画にしようと思って、最後のシンクロシーンを派手にすごいのを見せようとね。実際、ラストのシンクロはギュッと濃密にして10分近くあるんです。それまではずーっと無茶苦茶ですよ。
 
 -  撮影現場の雰囲気はどうなんですか?スタッフとのトラブルが起きることもあると思うんですが。
 
矢口氏 いつも撮れるかどうかぎりぎりのところでふんばっていますからね。スタッフのみんなが自分のことをどう思っているかはわかりませんね。(トラブルについては)理由がわからないときも終わってからわかるときもありますし、あとは図にして説明したりね。僕は怒れない人なんで、「~じゃなきゃ駄目!」とか「~に決まってる!」という言い方はしなくて、相手がこうでたら「じゃあこうしましょうか~」って別の手を提案したり、相談して決めていくほうが多いですね。「監督=サービス業」って感覚は日本には少ないかもしれないですけど。まあ全ての映画がそればっかりでは困るけど、もっとエンタテイメントが増えてくればバランスがよくなると思うんです。
 
 -  本日はありがとうございました。最後にTAMA CINEMA FORUMやINDEES in  TAMAについて何かコメントがありましたらお願いします。
 
矢口氏 サービス精神を忘れないで下さい(笑)。自主映画はなかなか上映まで到達できないことも多いですし、逆に上映したくても作品が集まらないこともあるでしょうし。とにかく頑張ってください。
 
聞き手;佐藤セーロー
矢口監督   ウォーターボーイズ
矢口監督   ウォーターボーイズ